【遺言・相続】「相続させる」遺言があるとき、相続人が先に死亡したら?

これこれの財産を長男に相続させる、という遺言が作成されることがよくあります。

このような遺言があった場合に、遺言者よりも長男が先に死亡してしまったら、この遺言の効力はどうなるのでしょうか。

1.遺贈には明文規定がある

遺贈については民法994条に明文の規定があり、そのような場合には遺贈の効力を生じないとされています。
しかし「これこれの財産を長男に相続させる」という遺言は遺贈と区別され、明文の規定がありません。

遺言がない場合、被相続人よりも相続人となる子が先に死亡したときは、被相続人の孫が相続人となります。
これを代襲相続といいます。

「相続させる」遺言がある場合も、これと同じように代襲相続が認められ、孫が相続することいになるのでしょうか。
それとも、遺言に明示した相続人(=長男)が存在しないので、遺贈と同じように遺言の効力が失われるのでしょうか。

2.最高裁の判断

この点について、学説には両方の説がありました。

しかし、最高裁は、平成23年2月22日判決で、原則として遺言の効力は失われ、代襲相続はしないという判断をしました。

問題になったのは、次のような事案でした。

被相続人である父Aに子Xと子Bとがいました。
父Aは、「遺産の全部を子Bに相続させる」との公正証書遺言を作成していました。

しかし父Aが死亡して相続が開始しました。
しかし、それよりも3か月ほど先に、子Bが死亡していました。
そこで子Xは、子Bの子らに対し、法定相続分に相当する遺産の持分を主張しました。

代襲相続が認められれば遺産の全部を子Bの子らが取得します。
しかし、遺言の効力が失われるのであれば、子Xは法定相続分に相当する遺産を取得することになります。

最高裁は、この判決で、次のように、原則として遺言の効力が失われると結論しました。
「上記のような「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」

その理由として、遺言者の意思は、特定の相続人に遺産を取得されることにあったと考えられることを指摘しています。
「遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは、遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し、当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく、このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される」

3.判例を踏まえて

遺言の解釈は、遺言者の真意を探求する作業だと言われます。

一人の子に「相続させる」との遺言がされたとき、その子が先に死亡した場合は誰に相続させるつもりであったか、それぞれの事案によって様々としか言いようがありません。
遺言者の意思は代襲相続人に相続させることであったと一般的に言うのは必ずしも適切ではないでしょう。

遺言者の意思がはっきりわからないのなら、その遺言は効力を失うと考えるのが最も無理のない解釈なのかもしれません。

したがって、相続人が先に死亡した場合には代襲相続させたいと考えるなら、遺言書を作成する場合に、「○○が遺言者より先に死亡したときは、○○の子に相続させる」などと記載しておくことが望まれます。

なお、上記判例を前提としても、特定の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情がある場合は、「相続させる」遺言が効力を失うわけではありません。
事情により、遺言が効力を失う場合なのか代襲相続が認められる場合なのか、争いになることがあります。
この点には注意が必要です。