【遺言・相続】預貯金の使い込み

遺産分割の話合いをするために、被相続人の口座を調べたら、被相続人が亡くなる前後の時期に、高額な引き出しがされているのが見つかった、という場合があります。
こういう場合は、どういう方法をとることができるのでしょうか。

1.遺産分割の対象となる財産は

相続は、被相続人の死亡により開始します。
したがって、相続人は、被相続人が死亡した時点の財産を相続することになります。
被相続人の死亡時点で2000万円の預金だけがあったとすると、この2000万円を相続します。

被相続人の死亡前に、被相続人と同居していた相続人が、被相続人の銀行口座から3000万円を引き出していたとしても、それが被相続人が贈与したのでなければ、相続財産は2000万円です。
しかし、その相続人が、被相続人に無断で引き出していたとしたら、他の相続人は黙っていられないでしょう。

被相続人の死亡時には銀行口座に2000万円あったものの、被相続人の死亡後に、同居していた相続人が1000万円をだまって引き出して、預金残高が1000万円になっていたとします。
この場合、遺産として残っていないものを分けることはできません。
ですから、遺産分割の対象となるのは、相続開始時の財産である2000万円のうち、現在残っている1000万円だけです。
この場合も、他の相続人は黙っていられないはずです。

以上のような場合、被相続人死亡前に引き出された2000万円や被相続人死亡後に引き出された1000万円について、不当利得返還請求を行うのが一般的です。

もちろん、だまって引き出した相続人がそのことを認めて、引き出した2000万円や1000万円を含めて遺産分割の話合いをすることは、何も妨げられることではありません。
遺産分割とは別の争いをする手間が省けますので、そのような選択をするメリットがあります。
引き出した金額も遺産に含めるという合意ができれば、それをどのように分けるかという遺産分割の話合いをすればよいことになります。

しかし、自分は知らないとか、生前の引き出しは被相続人に頼まれたことで、引き出したお金はすべて被相続人に渡したなどと主張する場合は、そういうわけには行きません。

2.不当利得返還請求

遺産分割は家事事件のカテゴリーに含まれ、裁判所を利用する場合は、家庭裁判所の管轄にあります。
他方、不当利得返還請求は民事事件のカテゴリーに含まれ、裁判所を利用する場合は、地方裁判所の管轄にあります。

法律上の理由がないのに相続人の一人が利益を得て、そのために他の相続人が損失を被った場合に、利益を得た相続人からの取戻しが認められます。
引き出された預金を取り戻したいと考える相続人は、預金口座の出金履歴、被相続人の身体状況や生活状況など、このことを立証できる資料を確保する必要があります。

ただし、被相続人は死亡していますので、その証言をとることはできません。
引き出した相続人が被相続人と同居していたような場合、離れて暮らしていた相続人は情報が少なく、立証が困難な場合が少なくありません。
冷静な判断が必要とされる場面もあるでしょう。

3.不当利得返還請求の進め方

不透明な預金の引き出しを話合いで解決できるのであれば、遺産分割の段階で終わることが多いです。
不当利得返還で争っているということは、それができなかったということです。
ですから、ここまでくると訴訟で決着を付けざるを得ないということになります。
管轄は、金額によって地方裁判所又は簡易裁判所となります。

家庭裁判所で遺産分割調停が行われている場合、両方を同時に進めても支障はありません。
しかし、地方裁判所で不当利得返還を争いながら、家庭裁判所で遺産分割の合意をするというのは、感情的になかなか難しいところがあります。
どちらかを先行させる場合が多いように思います。