【特許】FRAND宣言をした特許権に基づく告知が不正競争に当たるとされた。

◆FRAND宣言をした特許権に基づく
差止請求権を有するとの告知が
不正競争に当たるとされた
  (東京地裁平成27年02月18日判決)
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◆原告は,ブルーレイディスク(BD)の販売会社。

◆被告は,ブルーレイディスク(BD)に関する
パテントプールを管理運営するアメリカ法人。
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※「パテントプール」とは,特許等の複数の権利者が,
当該特許等のライセンスをする権利を一定の企業体に集中させ,
当該企業体を通じてライセンスを行う仕組み。
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◆被告は,プール特許権者の委託により,
BDを販売する原告の取引先(小売店)に対し,
当該パテントプールのライセンスを受けていない
BDの販売は特許権侵害であり,
特許権者は差止請求権を有するとの通知書を送付した。
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※「プール特許権者」は,BDの標準必須特許である日本特許350件の
特許権者11社。
※「標準必須特許」とは,標準規格に準拠した製品を製造し,
またはサービスを提供するにあたって避けることのできない特許。
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◆プール特許権者は,FRAND条件で
ライセンスを付与することを宣言していた。
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※「FRAND宣言」とは,「公正,合理的かつ非差別的な条件」
(FRAND条件)で取消不能なライセンスを許諾する用意がある旨の宣言。
→標準化団体において知的財産権の取扱基準を設け,
団体に参加する特許権者等の知的財産権が標準規格に必須となる場合,
参加者に特許権の開示義務を課し,さらにFRAND条件で
ライセンスを行うことの宣言を求めることが行われる。
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知財高裁決定H26・5・16
◆FRAND宣言をした特許権に基づく損害賠償請求について
①FRAND条件でのライセンス相当額を超える損害賠償請求権の行使は,
相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しない
などの特段の事情のない限り,権利濫用として許されない。
②ライセンス相当額を超えない範囲では,
標準規格に準拠しようとする者も当然支払を予想するから,
損害賠償請求を許すことが著しく不公正であると認められるなどの
特段の事情がない限り権利の濫用に当たらない。
◆FRAND宣言をした特許権に基づく差止請求について
特許権者がFRAND宣言をしたこと,
相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有することの
主張立証が成功した場合,差止請求権の行使は権利濫用に当たる。
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◆原告の請求
被告の通知は,不競法2条1項14号の虚偽告知に当たるので,
その差止と損害賠償を求める。
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不競法2条1項14号(現15号)
 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
14 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,
又は流布する行為
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《判決》
差止請求を認容。損害賠償請求は棄却。

■「競争関係にある他人」について
被告は,プール特許権者のいわば代理人的立場にある者として
原告との間に競争関係を認めることができる。
原告は,「競争関係にある他人」にあたる。

■「営業上の信用を害する」について
通知書に原告の名称は記載されていないが,小売店は,
当該製品の納入業者である原告が他人の特許権を侵害して
当該製品を小売店に譲渡したと認識する。
これは原告の営業上の信用を低下させる。
したがって本件告知は原告の「営業上の信用を害する」事実の告知である。

■「虚偽の事実」について
□FRAND宣言と差止請求権の行使の関係
相手方が,特許権者がFRAND宣言をしたこと,
相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける
意思を有する者であることの主張立証に成功した場合,
差止請求権の行使は権利の濫用に当たる。
(知財高裁決定H26・5・16と同)
□原告はFRAND条件によるライセンスを受ける
意思を有する者と認められる。
□差止請求権の行使が権利の濫用として許されない場合に,
差止請求権があるかのように告知することは,
「虚偽の事実」の告知に当たる。
■差止の必要性
被告は過去に不正競争を行い,
本訴において不正競争に当たることを争っているから,
差止の必要性は否定されない。
■損害賠償請求権の有無
FRAND宣言と差止請求権の行使との関係は,
平成26年5月16日の知財高裁決定で初めて示された。
これ以前の裁判例では
特許権者に誠実交渉義務違反があったことを重視していて,
これらの判断基準を本件にあてはめた場合の結論の予測は困難であった。
知財高裁決定にあたって行われた意見募集でも,
差止請求権の制限に関する判断基準について意見が分かれていた。
被告による通知の時点で,
相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する
ことをもって差止請求権の行使が許されないと解することが
確立した法的見解であったということはできない。
被告は,本件告知が虚偽の事実の告知となることを知らなかったし,
そのことにつき過失もなかった。損害賠償請求権は成立しない。

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