【PL法】欠陥を理由とする輸入業者に対する損害賠償請求

- 本件自転車の特性,通常予想される使用形態,引渡時期からすれば,本件事故における転倒の原因が自転車の部品であるサスペンションの分離であることが主張立証されれば,「欠陥」についての主張立証としては十分である。-

事案の概要

 コンピュータ・ソフトウェア開発する会社の代表取締役だったXは,平成14年4月,Yが輸入したイタリア製の自転車を7万円余りで購入し使用していました。
 この自転車は,フロントフォークがサスペンションフォークで,ハンドルバーに接続されるインナーチューブが前輪のハブ軸を支持するアウターチューブに約10センチ差し込まれ,インナーチューブとアウターチューブとが左右2本のスプリングで連結された構造となっていました。このスプリングがサスペンションとして機能しますが,もしスプリングが折損した場合には,2つのチューブが分離できる状態となるものでした。

 Xは,平成20年8月,この自転車を運転走行していたところ,他の車両や歩行者と接触することなく転倒しました。この事故の後,Xの乗っていた自転車のフロントフォークは,2本のスプリングがいずれも折損して,インナーチューブとアウターチューブとが分離した状態で発見されました。
 Xは,この事故により,右側頭骨骨折,第6頚椎骨折などの傷害を負い,症状固定後は重度の四肢麻痺を伴う神経系統の後遺障害が残存しました。この後遺障害は,医師により第1級1号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの)に相当すると判断されています。

 Xは,この自転車事故はXが自転車を運転走行中にサスペンションが分離したことによって発生したものである,これはこの自転車の欠陥によって生じたものであるとして,この自転車の輸入業者であるYに対し,自らの損害として1億7621万2339円の支払いを求めました。

裁判所の判断

自転車事故の原因は何か。

 Xは,走行中にサスペンションが上方に伸びてきた感じがしたため,反動をつけて強い力で押し込むために上方にハンドルを引き上げて勢いよく押し込もうとしたところ転倒した,つまり自転車の運転走行中にサスペンションが分離したことが事故の原因であると主張しました。
Yはこれを争い,走行中にサスペンションが上方に伸びてくることはなく,走行中にサスペンションが分離するほどにハンドルを引き上げることはきわめて困難であると主張しました。
 この点について,走行中にサスペンションの分離によって転倒する場合の転倒態様が,いくつかの実験によって示されていました。そして判決は,この転倒態様が,後方からの目撃供述と合致しているうえXの受傷状況と符合する,インナーチューブの損傷状況がサスペンションが分離して転倒した場合に想定されるものと符合する,サスペンションの分離以外に転倒を合理的に説明できる原因がない,などの理由で,自転車の転倒はサスペンションの分離が原因であると認定しました。

この自転車に製造物責任法の「欠陥」があるか。

 この点について判決は,まず,Xによるこの自転車の使用が,当該自転車について通常予想される使用形態に含まれるとして,「欠陥」を認定しました。
 Yは,Xがビンディングペダルを取り付けていたこと,ハンドルを高速走行中に引き上げるという行動を採った点を指摘していましたが,クロスバイクにおいてビンディングペダルを取り付けることは通常行われているし,取扱説明書においても禁止されていない,クロスバイクであれば溝や段差のある場所を走行することが予定されているから,運転者がハンドルを引き上げる動作を行うことは当然に予想されているとして,Yの指摘を採用しませんでした。

 この自転車を購入してから6年4か月が経過していることやXが定期点検を受けておらず事故前の9か月間は降雨にさらされる軒下に保管していたことについても,
 その程度の期間でサスペンションが容易に分離可能な状態となることは使用者の合理的期待を裏切るものである,
 取扱説明書にもサスペンションのスプリングが定期的な交換を要するとの記載がないなどとして,
 「欠陥」の存在を妨げる事情として採用しませんでした。

 そして,Xの走行中にサスペンションが分離するに至った具体的・科学的機序は十分に解明されていないが,本件自転車の特性,通常予想される使用形態,引渡時期からすれば,本件事故における転倒の原因が自転車の部品であるサスペンションの分離であることが主張立証されれば「欠陥」についての主張立証としては十分であり,サスペンションの分離に至る詳細な科学的機序,構造上の不具合までを主張立証する必要はないと述べています。

過失相殺

 もっとも,Xがこの自転車を購入してから6年4か月の間に一度も点検やメンテナンスを受けていなかったことには一定程度の落ち度がある,しかしクロスバイクの使用者が定期点検を受けることが常識と会っているとは言えないし,点検の際にサスペンションの内部の点検まで行うことが業者の通例であるともいえないとして,1割のみの過失相殺を認めました。

雑感

 裁判所としても,証拠からは,どのようにして本件事故が発生したのか必ずしもはっきりしなかったのかもしれません。Yとしては納得できる結論でなかったようですが,はっきりしないからという理由で,1級1号の後遺障害を負ったXの請求を棄却してしまうことには,ためらいが生じるであろうことも推測できます。

 この判決は控訴され,控訴審で和解により決着したようです。ですので確定した判決ではありませんが,通常の使用態様であったのに異常が発生して事故が生じたという主張立証によって「欠陥」を認定できるという点は,およそこれまでの判決と同様の判断がされているものと考えられます。

参考条文

製造物責任法
(定義)
第2条  この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。 2  この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
3  この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
一  当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)

(製造物責任)
第3条  製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第3項第2号若しくは第3号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。
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