親による教師を批判する発言が名誉感情の毀損を肯定された例(横浜地裁平成26年10月17日判決)


- 父母が学級担任の指導方法について要望を出したり批判することは当然許されることであるが,担任教師に対する人格攻撃に及ぶなど批判・非難を超えて担任教師が受忍すべき限度を超えたものであれば,名誉感情を毀損するとして違法性が認められる。-

事案の概要

 平成20年4月から小学校3年生のクラス担任を受け持っていたXは,10月3日,クラスの児童であるAが他の児童を丸太から引っ張り降ろした行為に関して,Aの帰宅後に自宅へ電話をかけて注意をしました。また11月10日ころには,Aを叩いて注意しました。
 Aは,11月12日と13日と学校を休みました。Xは,続く14日の授業中に,Aの背中を叩いたりして注意をしました。
 15日と16日とは土日で学校はありませんでしたが,Aは17日から学校を休校しました。

 Aの両親であるY1・Y2は,11月14日以降,教育委員会の事務所を訪れて,Xを懲戒処分にして,担任を替えるよう繰り返し要求しました。
 12月8日には,Yらの要求が受け入れられるまで退庁しないと言って日付が変わるころまで教育委員会に居座りました。
 12月9日,Y1はAとともに登校し,校長・教頭にAのクラス替えを要求したものの拒否されたため,授業終了まで教室前の廊下に立って過ごしました。
 12月10日,Y1は再びAとともに登校し,Aを別クラスの教室で授業を受けさせるために教室内にあったAの机と椅子を運び出しました。そして教室内のXに暴行を加えました。Y1は,この暴行によって19日まで逮捕勾留された後,不起訴処分となりました。

 Xは平成21年1月8日から3月26日まで休暇を取得し,Aは1月15日から登校を再開しました。

当事者の主張

Xの請求

 そこでXは,
 ①Yらに対して,平成20年12月8日に教育委員会でXの名誉を棄損する発言をして精神的苦痛を与えたとして慰謝料50万円の支払いを,
 ②Y1に対し,12月9日に教室でXの名誉を棄損する発言をして精神的苦痛を与えたとして慰謝料50万円の支払いを,
 ③12月10日にXに暴行を加えて負傷させたとして損害金336万円の支払いを,
それぞれ求めました。

Yらの反論

 Yらは,
 ①②について,Xの名誉を毀損するような発言をしていない,12月8日の午後8時以降に発言があったとしても,校長・教頭・主任・指導主事・職員らがいたにすぎないから,公然事実を指摘したとはいえないと反論しました。
 ③については,Xの側頭部や後ろを手の平で1回はたいたにすぎないと主張しました。
 またYらは,XがAを電話で激しく叱責して暴言を吐き,授業中にAの背中や頭部を強く殴打するなど暴言や暴行を繰り返した結果,Aが不登校になった,にもかかわらず,教育委員会や学校は何の対策もとらなかったとして,過失相殺も主張しました。

裁判所の判断

 判決は,
 ①について,12月8日,Y2が教育委員会を訪れて,「命の危険があるから担任を替えて欲しいと言っているのにどうしてだめなんですか?」「この担任は,妻がいうには,二重人格,多重人格なんですね。」「おとなしくて上品で良い先生と思っていたが違うんですね。10月3日の電話ではやくざみたいだったというんですね。」「差別する。暴行する。暴行とまでいえなくても叩くんですね。」「陰湿なんですこの担任は。跡の残らないところを選んでたたいているんですね。目つきが悪いんですね。」と大声で発言したとの認定を前提として,

 Y2の発言は,一般人の普通の注意と聴き方を基準とすれば,Xが不当・違法な指導方法を行う人物であるとの印象を与えるおそれがあるが,これを聴いていた教育委員会の職員や校長・教頭は,Xが不当・違法な指導を行っていないと結論付けた上でクラス替えを拒否していたのだから,Y2の発言で来られの者のXに対する社会的評価を低下させたとはいえない,
 またこれらの者は公務員として守秘義務を負っているから,これらの者からY2の発言内容が流布・伝播する可能性があるともいえないとして,名誉棄損については否定しました。

 その一方,父母が学級担任の指導方法について要望を出したり批判することは当然許されることであって,その内容が教師としての能力の非難に及ぶことがあっても直ちに違法性があるとは言えないが,担任教師に対する人格攻撃に及ぶなど批判・非難を超えて担任教師が受忍すべき限度を超えたものであれば,名誉感情を毀損するとして違法性が認められると述べた上,

 Y2の発言は,Aからの伝聞のみを根拠として,原告と協議してAの発言の真偽を判断することもなく,数時間にわたって教育委員会に居座りXが人格的に問題のある教師であると発言しているから,人格攻撃に当たる侮辱的な発言であり,Xの受忍限度を超えた名誉感情を棄損する違法な行為であると判断し,Xの受けた精神的損害は重いとして慰謝料5万円を認めました。

 ②については,Xが主張するようなY1の発言は証拠上認められないと判断しました。

 ③については,Y1がXの側頭部を右手の拳で強く上から下に向かって1回殴打したと認定し,暴行による損害額約88万円を認めました。

 Yらが主張した過失相殺については,XがAに暴行を加えたとは認められない,電話で厳しい口調で注意をしたが生徒指導の範疇として適切なものであった,Aの休学はYらの要求を通すための手段としてなされたものでありYらの意思によるところが大きいとして,採用しませんでした。

雑感

 名誉棄損については,Y2の発言内容について真偽を判断できる者しか聞いていないし,守秘義務があるので伝播性もなく,社会的評価を低下させたと言えないとしましたが,名誉感情の毀損による違法性を認めました。その判断に際して,批判・非難が違法でないとしても,それを超えた人格攻撃に及ぶなど受忍すべき限度を超えた場合,という枠組みを示しています。

 いわゆるモンスターペアレントなどの事案の参考となるのではないでしょうか。事案とは離れますが,今後Aがどのように育っていくのか,少々気になりました。