

特別縁故者
相続人がいるのかどうか分からない場合,家庭裁判所に選任された相続財産管理人が相続人の捜索の公告をします。それでも相続人が現れない場合,相続財産管理人は債務の清算をしますが,特別縁故者からの請求があれば,家庭裁判所は,審判によって清算後の相続財産の全部又は一部を特別縁故者に与えることができます。なお残った相続財産は国庫に帰属します。本件申立て
Xは,被相続人と特別縁故関係にあったとして相続財産の分与を求めていました。しかし原審判は,XはAの遺言書を偽造して被相続人の相続財産を不法に奪取しようとした者であり,特別縁故者として相続財産を分与するのは相当でないとして,Xの申立てを却下しました。
これを不服としてXが抗告したのが本件です。
Xは,原審判の判断に対し,
①判決で確定しているのは被相続人の遺言が被相続人の自筆によるものではないということだけであり,Xが偽造したことまで確定しているわけではない,
②仮にXが偽造したのだとしても,Xと被相続人とが50年以上も夫婦同然の緊密な関係を維持してきたことや,Xも全財産を被相続人に遺贈するとの遺言をしていること,被相続人の父が平成3年に死亡してから被相続人と生計を一にしてきたのはXのみであることから,被相続人が本件遺言書の内容を自らの意思に沿うものとして容認した可能性がきわめて大きい,
③被相続人の財産の大半は実質的にはXとの共有財産であり,Xに分与するのが相当である,
と主張しました。
裁判所の判断
本決定は,①訴訟における筆跡鑑定の結果から本件遺言書はXが偽造したというべきである,
②被相続人の意思がXに財産を遺贈するというものであれば,Xは遺言書をあえて偽造する必要はなかったのであり,偽造したという事実はそのような意思が被相続人になかったことを推認させる,
③被相続人の財産の大半がXとの共有であるとは認められないとの認定を前提として,
Xは被相続人名義の遺言書を偽造して相続財産を不法に奪取しようとしたのであるから,そのような行為をしたXに相続財産を分与することは相当ではないと結論づけ,原審判を維持しました。
雑感
民法第958条の3では,「相当と認めるときは,家庭裁判所は,・・・与えることができる」とされているところ,本決定では相当と認められないと結論したわけです。「特別縁故者として相続財産の分与を受ける権利は,家庭裁判所における審判によって形成される権利にすぎず」というのが最高裁の判例ですが,どのような場合に相当でないと判断されるのかの一例が示されたと言えます。参考条文
民法(権利を主張する者がない場合)
第958条の2 前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第958条の3 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。