【不法行為】11歳の小学生がサッカーボールを蹴って他人に損害を加えた場合の監督義務者責任

 「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」

事案の概要

 平成16年2月25日午後5時すぎころ,当時85歳だったAは,バイクに乗って小学校の近くを走っていました。
 ちょうどそのとき,当時11歳だったY1は小学校の校庭でサッカーのフリーキックの練習をしていて,ゴールに向かって蹴ったサッカーボールが校庭から飛び出してしまいました。
 飛び出したボールがAのバイクに当たったかどうかはよく分かりませんが,そのためにハンドル操作を誤ったAのバイクが転倒しました。
 Aは,この事故によって足を骨折するなどして入院しました。そして入院中であった平成17年7月10日,誤嚥性肺炎により死亡します。

 Aの相続人である妻X1と子X2~X5は,Y1とY1の両親であるY2,Y3とに対し,A死亡による損害の賠償を請求しました。

裁判所の判断

大阪地裁

 原々審である大阪地裁は,
 Y1がフリーキックの練習をしていた場所と位置は,ボールの蹴り方次第ではボールが道路上に飛び出し,バイクなどの車両に当たって転倒させる危険性があり,このような危険性を予見することは十分に可能であった,
 したがって,このような場所でボールを道路に向けて蹴る行為は行うべきでなかったにもかかわらず,漫然とボールを蹴って道路上に飛び出させたY1には過失があると述べて,Y1の過失を認めました。
 ただ,Y1は11歳で責任能力(自己の行為の結果がどのような法的責任を生じるかを認識できる能力)がないとして,
 民法714条によりY2・Y3に監督義務違反による賠償責任を認めました。Y2・Y3に監督義務違反があるか,という点についてはとくに詳細な検討はされていません。

 またバイクの転倒とA死亡との因果関係については,バイクの転倒が誤嚥性肺炎の直接的な原因になったとは言えないが,事故後の入院生活という環境の激変が契機となった可能性は否定できないとして,これを認めました。
 もっとも,Aにも既往症があってこれが寄与していると言えるとして,およそ損害の6割を減額しました。

大阪高裁

 Y2・Y3は控訴しましたが,原審である大阪高裁は,  ゴールに向かってフリーキックの練習をすれば,ボールがゴールを外れて本件道路に飛び出ることが十分予想された,
校庭内でサッカーをすることが許されていたとしても,本件道路との関係では校庭内でサッカーをする者は道路の交通を妨害しないような注意義務を負っていたというべきであり,Y1の行為はその注意義務に違反する行為であるとして,Y1の過失を認めました。
 また,校庭で遊ぶ以上どのような遊び方をしてもよいというものではないから,この点を理解させていなかった点で,Y2・Y3が監督義務を尽くさなかったものと評価されるのはやむを得ないと述べて,Y2・Y3の監督義務違反を認めました。
 また因果関係についても,本件事故による突然の入院とその長期化に起因して誤嚥性肺炎が生じたとして,これを認めました。

 これに対してY2・Y3が上告したのが本判決です。

最高裁

 最高裁は,
 ①児童のために開放された校庭において使用可能な状態で設置されていたゴールに向けて,友人らとともにフリーキックの練習をしていたY1の行為は,ゴールの後方に本件道路があることを考慮に入れても,校庭の日常的な使用法として通常の行為である,
 ②ゴールにはネットが張られ,その後方10mの場所には校庭の南端に沿ってネットフェンスが設置され,道路との間には幅1.8mの側溝があり,ゴールに向けてボールを蹴ったとしてもボールが道路上に出ることが常態であったとはみられない,
 ③Y1が殊更に道路に向けてボールを蹴ったなどの事情はうかがわれない,
 ④責任能力のない未成年者の親権者は,直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると考えられるが,本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,上記各事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為であると言えない,
 ⑤通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない,
 ⑥Y2・Y3は,日ごろからY1に危険な行為に及ばないよう通常のしつけをしていたのであり,Y1の本件行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったともうかがわれないから,監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである,
として,原々判決及び原判決中Y2・Y3の敗訴部分を取消し,X1~X5の請求を棄却しました。

雑感

 大きく報道されたことでよく知られた事件です。
 原審では,「どのような遊び方をしてもよいというものではない」ということを理解させていなかった点で両親の監督義務違反を認めましたが,こう言ってしまうと,責任無能力者に過失がある場合には,両親はそのような遊び方をしないように理解させていなかったということになりますので,ほぼ監督責任過失とイコールで認められることになります。
 これに対し最高裁は,どのような遊び方をしてもよいというものではないにしても,通常は人身に危険が及ぶものとみられない行為については,結果が具体的に予見可能でない限り監督義務違反を問うべきでないとしていますので,監督義務違反は責任無能力者の行為次第ということになります。

 最高裁の判断は,714条の条文からすれば,ある意味当然のことと言えるのかもしれません。そうだとすると,「714条但書による免責はほとんど認められない」という従来の「常識」こそが,原審,原々審でY側のハードルとなったのではなかろうかとも思います。

参考条文

民法
(責任能力)
第712条  未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、
その行為について賠償の責任を負わない。

(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第714条  前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、
その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。