

事案の概要
XとYとは,平成2年に婚姻しました。平成4年に長男が生まれ,平成7年には二男が生まれましたが,平成23年に夫であるXが実家に戻り,それ以来別居状態となりました。妻であるYは家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申立てましたが不成立となり,審判に移行しました。
審判ではXの年収を485万5020円,Yの年収を184万2660円とそれぞれ認定し,Xに対し,離婚又は別居状態の解消に至るまで毎月10万円を支払うように命じる審判が確定しました。
平成26年,Xは,審判後に収入が減少したので婚姻費用分担金を月額6万円に減額することを求めて,婚姻費用分担(減額)調停を申立てました。
提出されたXの平成25年分の源泉徴収票によれば,Xの給与収入は424万7384円でした。
一方,Yの平成26年度課税証明書によれば,Yの平成25年分の給与収入は271万1072円でした。
またYは平成26年に手術を受けて就労できず,この2か月の収入は合計で12万円程度でした。
その後にされた原審判では,Xの収入の減少が事情の変更にあたるとして,婚姻費用分担金を月額7万円に減額しました。
これに対してYが抗告したのが本件です。
東京高裁の判断
Xの年収が前審判の認定額よりも減少しているのに対し,Yの年収は増加していますので,Xの婚姻費用分担額は減少されてもよいように思えます。しかし,婚姻費用分担金を定める審判には不服申立手段として即時抗告が認められていますので,審判が確定したときには,同じ事情で審判の取消しや変更はできないと考えられています。
本決定は,「仮に何らかの事情の変更があったとしても,事情の変更がある度に逐一,婚姻費用分担金の額を変更しなければならないとすることは,確定した一定額の婚姻費用分担金の支払を前提とする当事者双方の安定した生活を一方的に不安定なものとする結果となり,妥当なものではないから,安易に事情の変更による婚姻費用分担金の減額を認めることはできない」と述べた上,
審判確定後の事情の変更による婚姻費用分担金の減額が認められる場合について,「その審判が確定した当時には予測できなかった後発的な事情の発生により,その審判の内容をそのまま維持させることが一方の当事者に著しく酷であって,客観的に当事者間の衡平を害する結果となると認められるような例外的な場合に限って許される」との判断を示しました。
そしてこの判断を前提として,Xの年収の減少率は約12.5%であって,それほど大幅な減少とは認められない,Yも平成26年の手術によって収入が減少していることがうかがえるから,平成25年の収入を示す課税証明書によってその収入を認定するのは相当でない,
しかも,22歳の長男や19歳の二男に定期的な収入があるのかどうか,Yが誰と生活しているのか,前審判で婚姻費用分担金を月額10万円と定めた際にXの給与収入の減少がどの程度まで予測されていたのか,これらがいずれも不明であり,前審判の後に事情の変更があったとして婚姻費用分担金を減額するには,未だ十分な審理が尽くされていないして,原審判を取消して家庭裁判所に差し戻しました。
雑感
予測を超える収入変動や生活状況の変動によって一方が著しく酷で客観的に衡平を害するということですから,婚姻費用分担金の増減額を希望される方は,比較的ハードルが高いと考えておいた方が無難です。この例の場合は,収入の変動よりも長男や次男に生活状況の変化があれば,その方が認められやすいのではないかと思います。
ただ,その点が原審判で判断されていないのは,変動がないので主張しなかったということなのかもしれません。
参考条文
民法(婚姻費用の分担)
第760条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
家事事件手続法
(給付命令等)
第154条 家庭裁判所は、夫婦間の協力扶助に関する処分の審判において、扶助の程度若しくは方法を定め、又はこれを変更することができる。
(即時抗告)
第156条 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
一 夫婦間の協力扶助に関する処分の審判及びその申立てを却下する審判 夫及び妻
(審判の取消し又は変更)
第78条 家庭裁判所は、審判をした後、その審判を不当と認めるときは、次に掲げる審判を除き、職権で、これを取り消し、又は変更することができる。
二 即時抗告をすることができる審判
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