債務整理を司法書士に依頼した債務者からの消滅時効の援用が信義則に反するとまでいうことはできないとされた事例(東京地裁平成25年6月10日判決)


- 受任通知受領後であっても,消滅時効を中断するために債務者を被告として訴訟を提起することは正当な理由があるから不法行為を構成しない。-

事案の概要

 Yは,平成8年5月24日,貸金業者であるXとの間で金銭消費貸借基本契約を締結しました。
 基本契約を締結するのと同時にいくらか借入れるのが普通ですが,判決では平成15年3月13日から平成18年7月12日まで借入れと返済を繰り返したとなっています。
 平成15年3月13日以前の取引は完済して終わっているのか,取引の履歴が不明なのか,よく分かりません。

 その後,何があったのか何もないのか知りませんが,Yは返済が苦しくなってきたようで,A司法書士のところへ相談に行きました。A司法書士は債務整理を受任し,平成18年8月11日,Xに宛てて,いわゆる受任通知をFAX送信しました。

 貸金業者が受任通知を受け取ると債務者への取立て行為ができなくなります。
 Xは,平成20年10月20日,A司法書士に,進捗状況を尋ねる書面を送付しました。2年間,どういう理由で債務整理が進んでいなかったのかは不明です。

 これに対し,A司法書士は,同年11月13日になって,Yについては民事再生手続きの予定であるが申立時期は未定であるというFAXを送信しました。
 その後,平成21年5月12日,A司法書士はXに電話をかけ,民事再生手続きの予定に変更はないものの,申立てにはかなりの時間を要すると告げました。ここまででも受任通知発送から3年近くが経過していますが,手続きが進んでいない理由は不明です。Yと連絡が取りにくかったか,着手金が用意できないか,A司法書士が多忙であったか,はたまたヤル気が不足していたか。

 さらに半年が経過した同年11月24日,Xは,A司法書士に宛てて,進捗状況を尋ねる書面を送付します。
 平成22年1月20日にはXからA司法書士に電話をしますが,事務員からA司法書士は不在であると言われてしまいます。事務員に進捗状況の確認があったという伝言を頼みますが,A司法書士からの折り返しの電話はありませんでした。
 同年2月5日の電話にA司法書士は出ますが,民事再生手続きの予定で準備中である,代理人は辞任しないとの回答だったようです。
 同年11月4日にも電話をしますが,結局同じような回答であり,Xは,なるべく早く申立てをするように依頼します。

 平成23年2月25日,同年9月9日,XからA司法書士に進捗状況を確認する書面を送ったり電話をかけたりしましたが,回答はありませんでした。
 平成24年2月13日の電話に対しては,「何とも答えられない」という回答であったようです。

 同年4月7日,Xはとうとうしびれをきらして貸金請求訴訟を提起しました。
 受任通知の送信によってYが期限の利益を喪失してからすでに5年8か月が経過していました。そこでYは,原審の期日で消滅時効を援用しました。

裁判所の判断

 民事再生であればわずかであっても貸金の一部が回収できますので,XとすればA司法書士の業務を妨げないように,その言うことを信じて待っていたと言いたくなるのは当然でしょう。Yが消滅時効を援用することは信義則に反し許されないと主張しました。

 この主張に対して控訴審は,

 受任通知受領後であっても,消滅時効を中断するために債務者を被告として訴訟を提起することは正当な理由があるから不法行為を構成しない,
 消滅時効が完成する間際に至っても訴えの提起を控えることが貸金業者として通常の対応であったとまでは認め難い,
 平成23年2月25日にAに対し「ご連絡のお願い」と題する書面を送付した時から,本件債権について消滅時効が完成した同年8月11日までの間,A司法書士と何ら交渉を持たなかったのだから,消滅時効が経過した原因がY及びA司法書士の言動のみにあったということもできない,
 A司法書士は民事再生手続を準備中であることを告げるにとどまり,訴え提起を牽制していたような事情は認められないし,消滅時効が完成した直後に時効を援用した事実も認められないから,A司法書士が当初から消滅時効によりYに債務を免れさせることを意図して対応していたとまでは認められない,
などとして,A司法書士の対応に不誠実な点がみられることを考慮に入れても,消滅時効を援用することが信義則に反するとまでいうことはできないと判断しました。

雑感

A司法書士もたいがいだけど,Xもすべきことをやっていなかったんだからしょうがないよね,というところでしょうか。貸金を請求するのなら,あんまりお人よしではいかんようです。

参考条文

商法
(商事消滅時効)
第522条  商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。