【不動産取引】マンション一棟の売買における一室での自殺と損害額

 - 居室内の自殺による価値の減損が土地にまで及ぶことはないし,建物全体に及ぶこともない。本件自殺による賃料の減額を要するのは,自殺のあった居室と直下の居室のみである。 -

紛争に至る経緯

 原告Xは,不動産賃貸業者です。
 被告Y1は,不動産売買を目的とする業者で,被告Y2は,不動産の仲介業者です。

 Y1は,平成19年,本件不動産(マンション一棟)を取得し,平成20年,マンション管理会社に本件マンションの賃貸管理業務を委託しました。
 ところが平成22年4月,このマンションの一室で居住者が死亡しているのが発見されました。
 同年10月,X代表者,Y1代表者,Y2の宅地建物取引主任者などが出席して,Y1がXに,本件不動産を3億9000万円で売却するとの売買契約が締結され,XからY1に手付金が支払われました。
 上記居住者の死因は自殺だったのですが,売買契約締結の際,重要事項説明書及び物件状況報告書に自殺の記載はなく,Y1,Y2らから自殺があったとの説明はされませんでした。

 そこでXは,Y1及びY2に対し,売買契約の際に自殺について説明されなかったことあるいは瑕疵担保責任を理由として,損害賠償を求めました。

Yらが調査・説明義務違反の損害賠償義務を負うか

 本件訴訟においては,まず,Yらが調査説明義務違反の損害賠償義務を負うかが争われました。

 この点について判決は,Yらは,①売買契約締結及び決済の当時,自殺の存在を知らなかった,②自殺についての新聞報道がされたり,近隣で噂になっているなどの事情がなく,管理会社の従業員が警察から自然死と聞いた旨の報告をY1にしていた等の事情の下,独自に警察や親族に確認するまでの調査義務は認められないとして,調査・説明義務違反を否定しました。

Xの損害額

 Yらは,本件自殺が心理的瑕疵にあたることについて争いませんでした。そこで,瑕疵担保責任に基づく損害額が問題となります。

 Xは,瑕疵のため,売買契約当時の本件不動産の価格が積算価格で3億円,収益価格で2億9100万円であるのに,これを3億9000万円で購入したから1億円の損害を被ったと主張しました。

 これに対し判決は,居室内の自殺による価値の減損が土地にまで及ぶことはないし,建物全体に及ぶこともないとした上,本件自殺による賃料の減額を要するのは,自殺のあった居室と直下の居室のみであるが,直下の居室については募集賃料が従前より減額されていないとして,自殺のあった居室のみについて賃料がどのように影響するかを検討しました。
 そして,当該居室については,自殺が発見されてから1年は募集が停止されて賃料収入は100%喪失する,2年目以降についての減額割合は50%と想定され,契約の更新によってこの減額割合は6~8年程度継続すると推認される,これによる本件不動産の減価率はおよそ1%であり,収益性による原価額は390万円と認められると認定しました。
 そして,売買契約締結の交渉過程でXが500万円の増額に応じていること,Yらがお祓いの費用として30万円を支出していること,Xがその他の支出をしていないことを総合的に勘案して,自殺があったという心理的瑕疵による損害額は600万円と認めるのが相当と判断しました。

コメント

 本判決では,不動産価値の減損がどの範囲に及ぶかについて,自殺の場所,居室の独立性などを根拠に,本件では当該居室と直下の居室に限定されるとしています。また,いったん入居があった場合,さらに次の入居者へは告知義務がなくなることから,減損期間は賃貸借契約の継続期間と考えられる6~8年程度としました。

 居室で自殺があったというような心理的瑕疵によって,不動産にどれだけの価格減少が生じたかを算定するのには困難が伴います。この点で,本判決は一つの参考になるのではないでしょうか。

参考条文

民法
(売主の瑕疵担保責任)
第570条  売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,第五百六十六条の規定を準用する。ただし,強制競売の場合は,この限りでない。

(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第566条  売買の目的物が地上権,永小作権,地役権,留置権又は質権の目的である場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。