
音楽教室での演奏に著作権者の演奏権が及ぶというのがJASRACの主張です。
演奏権について
この演奏権については,著作権法第22条に,「著作者は,その著作物を,公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し,又は演奏する権利を専有する。」と規定されています。したがって,演奏権が及ぶには,音楽教室での演奏が,「公衆に」対して,「直接聞かせることを目的として」いることが必要になります。
「公衆」
「公衆」については,同法第2条第5項で「この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。」と定義されていますので,不特定でなくても「公衆」にあたることになります。音楽教室では,先生が教室内の生徒に向けて模範演奏をしたり,生徒が練習のために演奏したりします。生徒は,同じ先生にレッスンを受けるのが一般的です。音楽教室側は,これが「公衆」に対する演奏と言えるのか,という点を問題にしています。
「直接聞かせることを目的として」
また,演奏はレッスンが目的です。先生や生徒によるレッスンのための演奏が「聞かせることを目的として」いるのか,という点も音楽教室側は問題にしています。音楽教室で教材としてCDなどを再生する場合には,同様に,その再生が「公衆」に対する「聞かせることを目的」とした演奏であるのかという点が問題となります。
著作権の制限
なお,著作権法第38条で,「営利を目的とせず、かつ聴衆から料金を受けない場合には演奏することができる。」と著作権が制限されていますので,生徒の演奏には演奏権の及ぶ余地がないのではないかとも思えます。しかしこの点について,カラオケを伴奏として客に歌わせることが店による演奏と言えるかが争われたクラブキャッツアイ事件で,最高裁は,客は店の管理のもとに歌唱し,店は客の歌唱によって集客し営業上の利益を増大させているから,客の歌唱は店による歌唱と同視できるという判断をしています。
他方,学校の音楽の授業などは「営利を目的とせず」に当てはまりますし,先生は演奏の報酬を受け取るわけではありませんので,演奏権は及びません。
「公衆」に対する演奏か
社交ダンス教室事件(名古屋高判平16・3・4)では,社交ダンス教室においてCD等を再生して演奏する行為が「公衆」に対する演奏にあたるかについて争われました。この判決では,社交ダンス教室での演奏も「公衆」対する演奏であると結論しました。その理由について,受講を希望する者は入会金さえ払えば誰でも受講生となることができる,受講生は予約さえ取れれば営業時間中いつでもレッスンを受けられる,つまりダンス教師の人数や施設の規模が許容する限り,何ら資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができるということであり,ダンス教室と受講生との間に契約があることや一時点における受講生数が数名であることは,必ずしも「公衆」であることを否定しない,と述べています。
たとえ演奏の対象が一時点で一人だったとしても「公衆」に対する演奏にあたるというのでなければ,例えば料金を払えば一人だけを聴衆にして演奏します,というサービスに演奏権が及ばないことになってしまいます。
ただ,音楽教室の場合,その場にいる特定の生徒にレッスンするのに必要な態様で,必要な部分を切り取って演奏されることがほとんどです。はたしてそういう演奏が「公衆」に対するものといえるのか,という気もします。
「聞かせることを目的」とした演奏か
音楽教室での演奏は,先生が生徒に手本を示したり,生徒が先生に自分の技量を示したりするために行われます。純粋な楽曲の鑑賞とは態様が異なるのは事実ですし,楽曲を鑑賞するため音楽教室に通う人もいないでしょう。しかし,条文では「直接聞かせることを目的として」とだけあり,芸術として鑑賞する目的とまでの文言はありません。人のいる公園でひとり鼻歌を歌うような場合を除く趣旨だとして,誰かに聞かせる目的があればこれに該当すると考えることも可能です。
この点を争点にして争われた先例は見当たりません。
雑感
音楽教室での演奏にはさまざまな態様があります。そして,その態様によって判断が分かれる可能性は十分にあります。そこで音楽教室側は,8つの著作物使用態様を掲げて,それぞれについて使用料請求権がないことの確認を求めています。私もこっそり音楽教室に通ったりしていますので,目が離せない問題です。
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