原告の従業員が本件発明の発明者とは言えないとした判決(知財高裁平成25年3月28日判決)


- 特許出願が冒認でないことの主張立証責任が形式的には特許権者にあるとしても,そのことは先に特許出願されたという事実により,他に反証がない限り推認される。-

紛争の要点

当事者

 原告Xは,平成6年に設立されたRFID(非接触ICタグ)のメーカーです。
 被告Yはコンピュータソフトウェアの開発・販売会社で,平成6年ころからRFID分野の研究を始めていました。

訴訟提起に至る経緯

 Yは,平成16年,発明の名称を「動態管理システム,受信器および動態管理方法」とする特許出願をして,特許権の設定登録を受けました。
 これに対してXは,本件発明はXの従業員Aが着想したものであるから,冒認出願あるいは特許法38条に反してされた特許であると主張して,特許無効審判の請求をしました。
 特許庁は,本件発明はAが着想したものと言えないし,仮に着想したとしても本件発明の発明者と言えないとして,審判の請求は成り立たない旨の審決をしました。
 そこでXが,審決の取消しを求めて提起したのが本訴訟です。

原告の主張

原告従業員による着想

 Xの従業員であるAは,本件特許出願前に,Yの従業員であるBに対し,ファイルを添付したメールを送信していました。
 Xは,この添付ファイルに記載された発明PをAが着想したものである,この発明Pが本件発明であるから,Aが本件発明の発明者又は共同発明者であると主張していました。

発明者の認定方法

 また,Xは,発明者の認定方法について,冒認出願の無効理由の存否について主張立証責任は特許権者Yが負担するところ,Xは冒認を疑わせる具体的な事情を十分に主張立証しているのに対し,Yはこれをしのぐ主張立証をしていないると主張しました。

裁判所の判断

本件発明への加担

 判決は,本件発明と発明Pとでは,各発信器が出力するトリガIDの出力先が相違し,各発信器が出力するトリガIDがタグを起動するかトリガ信号であるかも相違するから,本件添付ファイルに本件発明が記載されているということはできない,
 したがってAが添付ファイルの記載内容の着想者であるかどうかにかかわらず,Aが本件発明の発明者又は共同発明者ということはできないと認定しました。

発明者の認定方法

 そして,発明者の認定方法について,特許出願が冒認でないことの主張立証責任が形式的には特許権者にあるとしても,そのことは先に特許出願されたという事実により,他に反証がない限り推認される,
 Bは,遅くとも平成15年11月には本件発明を実質的に知得していたと認められるから,その上で先にYが特許出願したことにより,他に反証がない限り冒認でないことが推認され,添付ファイルに本件発明が記載されているとは言えないから有効な反証はなく,推認を覆すに足りる根拠はないと結論しました。

コメント

 発明者であるというためには,その発明の技術的思想の創作に加担したことが必要であることは言うまでもありません。本判決では,本件添付ファイルには,本件発明における課題を解決するための具体的な着想を認定した上,その着想がが記載されていないからAが本件発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したと言えないと判断しています。

 この判決によれば,冒認を理由とする紛争においては,その特許発明の本質部分の創作に現実に加担したことを,出願による推認を覆す反証として,原告側で積極的に主張立証しなければなりません。

 ここでも,発明の本質の理解・把握という点が,何よりも重要になるようです。

参考条文

特許法
(特許無効審判)
第123条  特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。
二  その特許が第25条、第29条、第29条の2、第32条、第38条又は第39条第1項から第4項までの規定に違反してされたとき
六  その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき

(共同出願)
第38条  特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。