【遺言】公正証書遺言が遺言能力を欠くことを理由に無効とされた例(東京高裁平成25年8月28日判決)


本件訴訟の経緯

 Yは,被相続人Aの相続人で,遺言能力を欠くことを理由にAのした公正証書遺言の無効確認を求めました。
 原判決がYの請求を認めたため,遺言における受遺者であるXが控訴したのが本件です。

認定された事実

 Aは,平成21年11月中旬ころ,すい臓がんが発見されましたが,すでに手術をしても手遅れであるということで,化学療法を受けていました。
 Aは,信託銀行に遺言信託の事務処理を依頼し,信託銀行は,平成22年1月5日付けで遺産分割に関する試算書面を作成しました。その配分内容は,本件遺言の内容とほぼ同じでした。

 ところがAは,同年7月6日付けで,遺産を基本的にYに相続させ,Xらへの分配を試算書面の内容よりも大幅に減少させる考えを大学ノートに記載しました。

 Aは,同年7月23日から,対症療法・緩和療法を受けるため入院しました。
 入院中,Aは麻薬鎮痛薬の処方を受け,8月初めころからは意味の通じない発言や見当識障害が見られるようになりました。

 公証人は,同月10日,本件遺言作成のため,Aの病室を訪れました。公証人は,Aの意向であるとして,事前にXから聞いていた内容に従って案文を用意していました。そして作成時のやりとりは,案文に沿った公証人の誘導的な質問に対してAが「うん」「ああ」などの声を発する形で進められました。
 Aは,公証人の読み上げの場面では目を閉じ,実際とは異なる年齢を答えるなどしていました。

 Aは浮腫のためにペンを持つことが困難と考えられたため,署名欄へは公証人が代署しました。

裁判所の判断

 以上を前提として,裁判所は,

Aがせん妄状態にあったと断定できないが,傾眠傾向や精神症状が頻繁に見られる,
公証人の問いかけに受動的に反応するだけであり,案文読み上げ中に目を閉じてしまった,
自分の年齢を間違えて言ったり,不動産を誰に与えるか答えられない状況であった,

本件遺言の内容は平成22年1月時点での考えに近いところ,Aは同年7月にその考えを大幅に変更しているにもかかわらず,
なぜ1月時点の考え方に沿った遺言をしたのか合理的な理由を見出し難い,

これらからすると,本件遺言作成時に遺言能力を欠いていたと認めるのが相当である,

として,本件公正証書遺言を無効としました。

雑感

 7月6日付けの大学ノートの記載と遺言内容とが異なっていて,遺言作成を依頼したXに有利な以前の内容に変更されていたというのがなければ,はたして無効になっていたでしょうか。

 遺言者の精神状況はもちろん重要ですが,やはり被相続人の意思に従った遺言内容と言えないと判決に書けるだけの証拠があるのは大きいと思います。