【労務管理・不法行為】退社せざるを得ない状況に追い込んだ会社の不法行為を認めたが,持ち込んだ保険契約について一種の無体財産であるとの主張を認めなかった例

事案の概要

 Xは,平成13年,個人でY1保険会社の保険代理店を営業していました。
 Xは,保険代理店Y2会社の代表から誘われて,平成18年,Y2への入社を承諾しました。
 そこでXは,Y1との間の保険代理店委託契約を解約し,個人で営業していた保険代理店を廃業しました。
 そしてXとY2は,Xが行っていた代理店業務を全部Y2に移管することの承認をY1に申請しました。

 その後XはY2に入社し,Xの給与は月30万円と決められました。
 Y2は,Xが入社する以前はY1の「上級代理店」でしたが,Xが移管した保険契約の収入により年間保険料収入が1億円を超えることになり,Xが入社して1か月後に「特級代理店」に昇格しました。

 Y2は,平成21年,Xに対し,給与を11月分から1か月ごとに27万円,24万円,20万円と減給すること,今後は毎年3月末のY2の業績やXの勤務成績を考慮して給与を決定することを通知し,そのとおりに給与を減額しました。

 この給与減額を起因としてXとY2との間でトラブルが生じ,Y2は平成22年8月20日付けで解雇する旨の解雇予告通知をXに交付しました。
 Xは同年7月29日から8月20日まで有給休暇を取得し,8月20日に私物を取りに来た以外,出社することはありませんでした。
 その後Xは,代理店資格取得のための研修生という立場で保険会社に勤務していました。

 そこでXは,主位的請求として,
 ①Y1及びY2に対し,共同不法行為に基づき,保険契約を失ったことによる財産的損害の賠償,
 ②Y2に対し,不法行為に基づき慰謝料,労働契約に基づき未払い給与の支払,
 予備的請求として,
 ③Y2に対し,解雇無効の確認,
 ④労働契約に基づき未払い給与の支払,
 ⑤将来給与の支払
を求めました。

原審の判断

 これに対し原審は,
 ①棄却
 ②棄却
 ③認容
 ④認容
 ⑤判決確定日まで認容
したので,X,Y2ともに控訴しました。
 なお,控訴審でXは,①に不当利得に基づく請求を追加しています。

本判決の判断

不法行為の成否

 本判決は,Y2の不法行為について,
 Xが保険契約をY2に移管しなければ特級代理店への昇格はなく,Y2に対するXの寄与は少なくなかった,
 にもかかわらず,Xの同意なく一方的に大幅な減給という労働条件の不利益変更を行った,
 これはY2がXを退社せざるを得ない状況に追い込んだと言え,Y2は不法行為責任を免れない,
と判断しました。

損害についての判断

 Xは,その損害額として,移管した保険契約によってY2は保険代理店としての昇格があったから,これらの保険契約は一種の無体財産であるとして,移管した保険契約から得られるべき収入相当額や保険契約を第三者に引き継いだ場合の代償金相当額が,上記不法行為による損害又は不当利得になると主張していました。

 この点について本判決は,
 実質的にY2がXから保険契約を奪ってしまったと評価する余地は否定できない,しかし,
 保険契約の移管手続は適法に行われている,
 XがY2を退社した場合の保険契約の取扱いについて別段の合意がされていたとは認められない,
 したがって,XがY2を退社したからといって,Y2がXに保険契約を返還すべき義務や,返還に代えて代償金を支払うべき義務が発生する法的根拠はない,
として,Xの主張は排斥しました。
 ただ,不本意な退社を余儀なくされたことによる慰謝料を算定するにあたり,保険契約を奪ってしまったと評価する余地もあることを勘案しています。

雑感

 明文の規定がなく判例によって認められている無体財産権としてパブリシティ権がありますが,保険契約自体に無体財産としての価値があるというのは,少々苦しい面があるような気がします。
 判決としては,やはり慰謝料として勘案するのがせいぜいのところかもしれませんね。