【商標】商標法56条で準用する特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」に関する判断がされた例(知財高裁平成26年3月13日判決)


 「同一の事実」とは無効理由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは主張事実を根拠づけるための実質的に同一の証拠を指し,同一の事実を根拠づけるための証拠である以上,証拠方法が相違することは,直ちには証拠の実質的同一性を否定する理由にはならない。

事案の概要

 Xは,商標を標準文字「KAMUI」,指定商品を「運動用具」とする登録商標(本件登録商標)の商標権者です。

平成21年の審判

 Yは,平成21年,本件登録商標が商標法4条1項10号及び同項19号に該当することを理由に無効審判を請求しました。
 この審判での同項10号に関するYの主張内容は,平成9年ころからYが販売していたゴルフクラブに使用していた商標が,本件登録商標の出願時及び査定時に周知であり,本件登録商標と類似する,というものでした。
 これについて特許庁は,平成22年,出願時以前から周知であったとは認められないとして「請求は成り立たない」旨の審決をし,確定審決の登録がされました。

平成25年の審判

 Yは,平成25年,今度は本件登録商標が商標法4条1項10号及び同項7号に該当することを理由に,再度無効審判を請求しました。

 この審判でのYの主張内容は,平成8年以前からYがゴルフクラブについて使用していた商標が周知であるというものでした。

 これについて特許庁は,前審判は同項10号及び19号違反の事実に基づいてされたものであるのに対し,本件審判は同項7号及び10号違反の事実に基づいてされたものであるから「同一の事実」に基づいてされたものではない,
 前審判と本件審判とでは,「使用プロ」と題する書面の記載内容,カタログの発行年度がそれぞれ異なり,本件審判で提出された決算報告書は単なる補強証拠と言えないから,特許法167条に規定された「一事不再理」に違反するものではないとし,その上で同項10号に該当するとして無効審決をしました。

 これに対して,Xが,本件審決の取消を求めて訴訟を提起しました。

裁判所の判断

特許法167条の趣旨

 同条の趣旨は,矛盾する確定審決の発生を防止すること,審判請求の濫用を防止すること,権利者が被る対応の煩雑さを回避すること,紛争の一回的解決を図ることにある,
 したがって,「同一の事実」とは無効理由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは主張事実を根拠づけるための実質的に同一の証拠を指し,同一の事実を根拠づけるための証拠である以上,証拠方法が相違することは,直ちには証拠の実質的同一性を否定する理由にはならない。

「同一事実」について

 Yの主張事実は,Yの使用する商標が,ゴルフクラブに使用する商標として出願時及び査定時において周知であり,本件登録商標がこれと類似し,その指定商品がゴルフクラブと類似するということであり,前審判と本件審判とで同一である。

 本件審判でYが周知と主張する商標は,前審判で判断対象とされた商標に含まれ,Yが周知性を主張するY使用商標は互いに同一と言える。

 前審判の無効理由が商標法4条1項10号及び19号該当性であるのに対して本件審判の無効理由が同項7号及び10号であるから「同一の事実」に基づかないという審決の判断は,無効理由を追加さえすれば確定効がなくなってしまうことから誤りであることが明らかである。

「同一の証拠」について

 前審判と本件審判とでは,周知性を立証するための証拠はほとんどが同一である。

 本件審判では,前審判と異なり「Yの2000年商品カタログ」「決算報告書」「使用プロ一覧表」が提出されているが,「2000年商品カタログ」は前審判で作成年月日が確認できないとされたことから本件審判で作成年月日が確認できるカタログを提出したのであり,「決算報告書」は販売されたゴルフクラブの本数を前審判で根拠づけられなかったため本件審判で亭主されたものであり,「使用プロ一覧表」は使用するプロゴルファーの氏名等を追加記載したものであり,前審決の判断を蒸し返す趣旨の範囲を超えない。

 以上から,本件審判請求は前審決の確定効に反するもので許されないとして,本件審決を取り消しました。

雑感

 平成23年の改正で,審決の確定効が及ぶのは「当事者及び参加人」に限られることになりました。「同一の事実」「同一の証拠」についても厳格に考える必要がなくなり,今後も実質的に同一かどうか,蒸し返しと言えるかどうか実質的な判断がされることになると考えられます。

 それにしても,「同一の事実」に関する前審決の判断は,理解に苦しむと言わざるを得ません。

参考条文

商標法
(商標登録を受けることができない商標)
第4条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

平成23年改正前特許法(商標法56条で準用)
(審決の効力)
第167条 何人も,特許無効審判又は延長登録無効審判の確定審決の登録があったときは,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。