【特許】炭酸飲料小出し装置事件:独立特許要件違反を理由に補正却下した審決が違法であるとして取り消された例(知財高裁平成26年2月26日判決)


 補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当して,独立特許要件違反を理由に補正却下することができるとしても,審査及び審判の過程で全く拒絶理由を通知されていない請求項が,審判において進歩性を欠くことを理由に補正却下することは,適正手続きの保障の観点から許されるものではない。

事案の概要

 Xは,平成11年,発明の名称を「加圧下に液体を小出しする装置」とする特許出願をしました。平成21年1月に最初の拒絶理由通知がされ,その後4度の手続補正をしましたが,平成23年7月に拒絶査定を受けました。
 そこで拒絶査定不服審判を請求するとともに,手続補正(本件補正)を行いました。
 これに対し特許庁は,平成24年10月,補正却下した上,審判請求は成り立たないとの審決をしました。
 そこでXが提起した審決取消訴訟が本件です。

特許庁の審判

 本件補正前の請求項1は次のとおりでした。

「第1室と第2室を有する容器を含み,
第1室は小出しされるべき炭酸飲料を受容し,
第2室は二酸化炭素を受容し,
少なくとも使用中には,第1室と第2室との間に開孔が設けられ,
第2室から第1室へと流れる二酸化炭素の圧力を使用時に制御するための圧力制御手段が設けられ,第2室内には,二酸化炭素の少なくとも一部を吸収及び/又は吸着するための充填剤が配置され,充填剤が少なくとも活性炭を含み,
圧力制御手段が,第1室内に大気圧より0.1~2バール過剰の圧力を与え且つ保つように設定されている
ことを特徴とする炭酸飲料の小出し装置。」

 これに対し,本件補正後の請求項1は,次のとおりです。

「第1室と第2室を有する容器を含み,
第1室は小出しされるべき炭酸飲料を受容し,
第2室は二酸化炭素を受容し,
少なくとも使用中には,第1室と第2室との間に開孔が設けられ,
第2室から第1室へと流れる二酸化炭素の圧力を使用時に制御するための圧力制御手段が設けられ,第2室内には,二酸化炭素の少なくとも一部を吸収及び/又は吸着するための充填剤が配置され,充填剤が少なくとも活性炭を含み,
圧力制御手段が,第1室内に大気圧より0.1~2バール過剰の圧力を与え且つ保つように設定されており,
炭酸飲料はビールであり,小出し館が容器の頂部の弁から容器の周囲の外側に延びる端部まで延び,容器が卓上に直立して延びるとき,グラスを前記端部の下方に配置する
ことを特徴とする炭酸飲料の小出し装置。」

 特許庁の審決は,補正後の発明について,進歩性がなく独立して特許を受けることができないとして補正を却下し,補正前の発明について進歩性がないと判断したものでした。

本判決の判断

Xの主張

 本件訴訟においてXは,進歩性についての判断の誤りのほか,補正後の請求項1は補正前の請求項1に旧請求項19の構成を含めたものであるところ,請求項19について拒絶理由通知がされておらず,意見書及び手続補正書を提出する機会が与えられないまま拒絶審決をするのは,特許法159条で準用する同法50条に反すると主張しました。

 旧請求項19は次のとおりです。

「炭酸飲料はビールであり,小出し館が容器の頂部の弁から容器の周囲の外側に延びる端部まで延び,容器が卓上に直立して延びるとき,グラスを前記端部の下方に配置することを特徴とする請求項1記載の装置。」

裁判所の判断

 本判決は,次のとおり,およそXの主張を認めて拒絶審決を取り消しました。

 補正後の新請求項1は,補正前の旧請求項1を引用する形式で記載されていた旧請求項19を,引用形式でない独立の請求項としたものである,
 新請求項1は,旧請求項1を削除して,旧請求項19を新請求項1にしたものであるから,旧請求項1の補正という観点から見れば請求項の削除を目的とするものであり,独立特許要件違反を理由とする補正却下をすることはできない,
 旧請求項19の補正という観点から見ても,旧請求項19は新請求項1と同じであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正ではない,
 審決は,実質的に項番号の繰り上げ以外に補正のない新請求項1を,独立特許要件違反による補正却下を理由として拒絶したものであり,誤りである,
 旧請求項19は拒絶査定の理由とされていなかったのだから,審決において旧請求項19である新請求項1を拒絶する場合は,拒絶理由を通知して意見書を提出する機会を与えなければならない,
 旧請求項19については査定手続においても審判手続きにおいても拒絶理由が通知されておらず,違法と言わざるを得ない。

雑感

 本判決では,次のような判断もされています。すなわち,

 仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当して,独立特許要件違反を理由に補正却下することができるとしても,審査及び審判の過程で全く拒絶理由を通知されていない請求項が,審判において進歩性を欠くことを理由に補正却下することは,適正手続きの保障の観点から許されるものではない,
というものです。

 審判請求時にした特許請求の範囲の減縮を目的とする補正が,拒絶査定と異なる理由により独立特許要件を充たさない場合でも,特許法159条2項で準用する同法50条但書きにより,拒絶理由通知をすることなく補正却下ができると読めることになります。
 しかし,そのような読み方をして補正却下するのは違法であるという判断を,本来触れなくてもよい仮定的な判断の中で,あえて判示したと言うことになります。

参考条文

平成18年改正前特許法
(願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の補正)
第17条の2 特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし,第50条の規定による通知を受けた後は,次に掲げる場合に限り,補正をすることができる。
四 拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求の日から30日以内にするとき。
4 前項に規定するもののほか,第1項第三号及び第四号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は,次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 第36条第5項に規定する請求項の削除
二 特許請求の範囲の減縮
5 第126条第5項の規定は,前項第二号の場合に準用する。

(訂正審判)
第126条
  5 第一項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。

(拒絶査定不服審判における特則)
第159条 第53条の規定は,拒絶査定不服審判に準用する。この場合において,第53条第1項中「第17条の2第1項第三号」とあるのは「第17条の2第1項第三号又は第四号」と,「補正が」とあるのは「補正(同項第三号に掲げる場合にあつては,拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が」と読み替えるものとする。
2 第50条の規定は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。この場合において,第50条ただし書中「第17条の2第1項第三号に掲げる場合」とあるのは,「第17条の2第1項第三号又は第四号に掲げる場合(同項第三号に掲げる場合にあつては,拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)」と読み替えるものとする。

(拒絶理由の通知)
第50条 審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし,第17条の2第1項第三号に掲げる場合において,第53条第1項の規定による却下の決定をするときは,この限りでない。

(補正の却下)
第53条 第17条の2第1項第三号に掲げる場合において,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは,審査官は,決定をもつてその補正を却下しなければならない。