【遺言・相続】自筆証書遺言全体に斜線を引く行為が「故意に遺言書を破棄したとき」にあたるとされた例

 -文面全体に斜線を引く行為が有する一般的な意味に照らすと,遺言書の全体を不要のものとして,記載された遺言のすべての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当である-

事案の概要

 Aは,昭和61年,遺産のほとんどを長男Yに相続させる内容の自筆証書遺言(本件遺言書)を作成しました。

 そしてAは平成14年に死亡し,本件遺言書が発見されました。

 しかし,発見された本件遺言書には,文面全体の左上から右下にかけて赤色ボールペンで1本の斜線が引かれていました。
 この斜線は,Aが故意に引いたものと考えられます。

 そこでAの長女Xは,Aが斜線を引いたことによって本件遺言書を破棄したといえると主張して,Yに対し,本件遺言の無効確認を求めました。

原判決の判断

 原判決は,斜線が引かれていても元の文字が読み取れる状態であるから,斜線を引く行為は「遺言を破棄した」にあたらないとして,Xの請求を棄却しました。

最高裁の判断

 本判決は,
 文面全体に斜線を引く行為が有する一般的な意味に照らすと,遺言書の全体を不要のものとして,記載された遺言のすべての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当である,
 として,この斜線を引く行為は「遺言書を破棄したとき」にあたり,Aは遺言を撤回したものとみなされると判断しました。

雑感

 自筆証書遺言の変更については,民法968条2項に方式が定められ,この方式を満たさない変更は無効になり,遺言の内容は変更前のものとなります。
 したがって,今回の斜線が「変更」にあたれば,もとの遺言が有効ということになります。
 本判決の判断も理解できますが,斜線を引いた遺言書をその後も保管しておいたという点を重く見ると,「破棄した」とまで言えるのかという判断に近づくようにも思います。
 いずれにせよ,遺言に後から線が引かれる態様は様々なものが考えられ,それが「変更」にあたれば元の遺言が有効になり,「破棄」にあたればその部分を撤回したことになるとすれば,微妙な判断になります。
 遺言書を作成する立場からは,自分の意思が正確に残されるように注意すべきということになるのでしょう。

参考条文

民法
(自筆証書遺言)
第968条
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第1024条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。