【家事事件手続】自庁処理せずに移送したことが違法として取り消された例

 事案の内容や申立ての経緯等によれば自庁処理すべき特段の必要があることが明らかであるにもかかわらず,これを管轄裁判所に移送した場合,その決定は裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用した違法なものとなる。

事案の概要

 XとYとは,平成24年から交際を始めていました。
 Xは,平成25年に妊娠に気づき,Yとの婚姻を希望するようになりました。
 Yは,同年,仙台市内から埼玉県に転居しました。
 Xは,同年男の子を出産し,Yに認知と出産費用の負担を求めました。

 これに対してYは,平成26年,Xの住所地を管轄する仙台家庭裁判所に,Xを相手方として,男女関係解消調停を申立てました。
 この調停の第1回期日において,Xは,認知や出産費用の負担について協議するため,Yと男の子とのDNA鑑定を行うことを希望し,Yもそれに応じる意向を示しました。

 Xは,その後,仙台家庭裁判所に,Yに対し男の子の認知を求める認知調停と,Yに対し婚約不履行を原因として慰謝料請求を求める慰謝料調停とを申立てました。
 Yの住所地を管轄するのはさいたま家庭裁判所ですので,仙台家庭裁判所がYに意見を聞いたところ,YはXが申し立てた両調停を仙台家庭裁判所で行うことに同意せず,さいたま家庭裁判所で行うのであれば出頭すると回答しました。
 その理由としては,代理人弁護士を選任していてさいたま家庭裁判所への移動が容易であり,またYは足の手術をしたばかりで長距離の移動が難しいことを挙げていました。

 仙台家庭裁判所は,Xの申立てた両調停を,さいたま家庭裁判所に移送する決定をしました。
 そこでXが抗告したのが本件です。

裁判所の判断

 裁判所は,次のように述べて,移送決定は違法であると結論しました。

どのような場合に裁量権の逸脱となるか

 家事事件手続法245条1項は,申立人が相手方のもとに出向いて調停をした方が,手続きに関与させられる相手方の公平の理念に合致し,話合いがまとまりやすいことを趣旨とするものと解される,

 その上で同法9条1項は,事案によっては管轄のない家庭裁判所で調停を行う方が適切な場合があるため,例外的に家庭裁判所が職権で自庁処理することを可能にしたものである,

 これらの規定によれば,自庁処理すべきかの判断については,事案の内容,管轄権のない裁判所に申し立てられた経緯等を総合的に考慮して行われる家庭裁判所の合理的な裁量に委ねられている,

 したがって,事案の内容や申立ての経緯等によれば自庁処理すべき特段の必要があることが明らかであるにもかかわらず,これを管轄裁判所に移送した場合,その決定は裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用した違法なものとなる。

本件のあてはめ

 本件についてみると,

 ①両調停は,仙台家庭裁判所の管轄区域内で生じた男女関係の問題に関し,Yから同裁判所に申し立てられた調停の話合いを実質的なものとするためのものである,
 ②認知調停はYの意向を受けて申立てられ,慰謝料調停はこれと同時に申し立てられたものである,
これら①②に照らし,Yの申し立てた調停と併せて仙台家庭裁判所で行うのが当事者間の公平に沿う。

 ③男の子は生後1年を経過しない乳児であり,Xがさいたま家庭裁判所に出頭するのは相当の困難を伴うことが予想される,
 ④Yは自分から仙台家庭裁判所に調停を申立てて出頭しているし,これと同一期日に両調停が開かれれば新たな出頭の負担が生じるものではない,
 したがって,さいたま家庭裁判所よりも仙台家庭裁判所で両調停を行う方が当事者の出頭を確保しやすく,話合いがまとまりやすい。

 以上から,事案の内容,申立ての経緯,当事者の出頭の確保の観点から,仙台家庭裁判所で調停を行う方が当事者の公平に資する上に,話合いがまとまりやすいと認められ,仙台家庭裁判所において自庁処理すべき特段の必要がある。
 原決定は,考慮すべき事情を十分考慮せず,法の趣旨にもとる結果を生じたものであり,裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用した違法なものである。

雑感

 管轄のない裁判所で申立てを受けつけてもらうには「特に必要が」なければなりませんからそれなりのハードルがあります。
 しかし,本件ではYが申し立てた先行する調停がすでに仙台家庭裁判所に係属していたのですから,仙台での同時進行をYが拒む理由はないように思います。

参考条文

家事事件手続法

(移送等)
第9条 裁判所は,家事事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは,申立てにより又は職権で,これを管轄裁判所に移送する。ただし,家庭裁判所は,事件を処理するために特に必要があると認めるときは,職権で,家事事件の全部又は一部を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に移送し,又は自ら処理することができる。
(管轄等)
第245条 家事調停事件は,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。