【不動産取引】振り込め詐欺の金員送付先として公開されていたことと瑕疵担保責任

 賃貸借の主目的が事業収益の獲得にあることからすると,事務所の使用継続に嫌悪感・不安感があるというだけでは足りず,その嫌悪感等が事業収益減少や信用棄損等の具体的危険性に基づくものであり,通常の事業者であれば本件建物の利用を差し控えると認められることが必要である。

事案の概要

 X社は,ネット販売会社で,Y1を貸主とする建物賃貸借契約の借主です。
 Y2はY1側の仲介業者,Y3はX側の仲介業者です。

 X社は,平成25年5月,Y2,Y3の仲介により,Y1との間で賃貸借契約を締結し,マンションの1室を事業用事務所として賃借しました。

 ところが警察庁のホームページに,振り込め詐欺の被害者が現金を送ってしまった住所が「被害管径住所一覧表」として公表されていたところ,それには平成26年3月ころまで,上記賃借物件である事務所の住所が含まれていました。
 また個人のホームページ等には,警察庁が削除した後も,上記住所を公表しているものがありました。
 Xは,平成15年11月15日付けで本店を移転し,賃貸借契約解除届を提出し,同年12月9日に本件事務所を退出しました。

 そこでX社は,上記事務所の住所が警察庁等のホームページに「振り込め詐欺関連住所」として公開されていることは「隠れた瑕疵」にあたり,この瑕疵のためにネット販売の売上げが著しく減少し,また信用を毀損されたとして,Y1~Y3に対し,瑕疵担保責任を含む損害賠償を求めました。

裁判所の判断

瑕疵担保責任が認められるか

 本判決は,

 建物の「隠れた瑕疵」には建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等を原因とする心理的瑕疵も含まれるとしつつ,

 賃貸借の主目的が事業収益の獲得にあることからすると,事務所の使用継続に嫌悪感・不安感があるというだけでは足りず,その嫌悪感等が事業収益減少や信用棄損等の具体的危険性に基づくものであり,通常の事業者であれば本件建物の利用を差し控えると認められることが必要であるとし,

 Xが使用継続に嫌悪感を覚えたことは理解できるとしながら,
 ① 本件事務所に関する振り込め詐欺については報道されたと認めるに足りる証拠はなく,警察庁のホームページ等を確認しなければ詐欺犯罪があったと認識することは極めて困難,
 ② 警察庁のホームページで公表されている事実は一般に周知されていると言えず,Xすらこれを知らずに賃貸借契約を締結している,
 ③ ネット販売における信用性の判断は購入者による評価が重視され,販売業者の住所を精査して購入するかどうかを判断することはまれである,
 ④ Xが退去した後,1か月程度で新たな賃借人が決まり,その賃料は月1000円高く,重要事項として振り込め詐欺関連住所としてネットに出回っていることが説明されている,

 以上から,振り込め詐欺関連住所として警察庁によって公表されていたことは,Xの事業収益減少や信用毀損に具体的な影響を及ぼすものとは認められないとして,Xの請求を退けました。

不法行為及び債務不履行責任があるか

 また,不法行為及び債務不履行責任についても,
 事業用の賃貸借契約の締結にあたって,賃貸人及び仲介業者において,賃貸物件が過去に犯罪に使用されたことがないかについて調査・確認すべき義務はないとして,否定しました。

雑感

 Xは住所の公表を知らずに借りたからこそ「隠れた瑕疵」だと主張しているのに,③のように言ってしまうと,事業用の物件に「隠れた瑕疵」は存在しないことになってしまうのではないでしょうか。
 ただ,Xの売上げ推移は,必ずしも住所の公表が原因で売り上げが落ちたとまで明確に言うことができないものだったようで,「収益減少や信用毀損の具体的危険性」が必要だと言うのであれば,この結論は仕方がないのでしょう。

参考条文

民法

(売主の瑕疵担保責任)
第570条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第566条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

(有償契約への準用)
第559条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。