【交通事故】業務終了後における原付の運転で生じた交通事故において使用者責任を否定した例

 Y社が自家用車による通勤を命じたり,助長するような行為をしていたことはうかがわれない,AがY社の制服を着用していたことを考慮してもAの運転行為がY社の業務と密接に結びついていると言えない。

事案の概要

 Y社は警備保障業務を行う株式会社です。
 工事業者と契約して,工事現場で雇用する警備員に交通誘導業務を行わせています。
 Y社の警備員は,定められた時間に担当の工事現場に直接赴き,定められた時間まで交通誘導業務を行うことになっています。
 その後は,警備報告書を作成して現場責任者の確認を受け,業務終了となります。

 Y社の警備員は,Y社が支給した制服を着用し,Y社が支給した誘導灯を持参して交通誘導業務を行います。
 制服と誘導灯とは入社時にY社から受け取り,退職時に返還することになっています。
 原則として,クリーニングも警備員が各自で行うことになっていました。

 Y社の本社にはロッカーなどもないので,警備員は工事現場に直行・直帰していて,業務の前後に本社に立ち寄るということはありませんでした。

 Aは,Y社の従業員です。
 XがAに追突されたと主張している日は,その前日の午後9時から当日の午前6時まで工事現場において交通誘導業務に就き,勤務終了後,制服を着たまま退勤しました。
 そして自己所有の原動機付自転車を運転し,自転車で走行していたXの後方を進行していました。
 ただ,Yは通勤手当を支給していませんでしたので,Aは,指定された工事現場に原付で行くこともあれば,電車を利用することもありました。

 Xは,自転車に乗って停止中であったところ,Aの原付がXの自転車の後部に追突したとして,Y社に対し,使用者責任に基づく損害賠償を求めました。

 これに対しY社は,XのケガがAの追突によるものであることを争うほか,業務終了後の事故であるから使用者責任を負わないと反論しました。

裁判所の判断

 本判決は,

 本件事故があったとされているのは,AがY社の業務終了後に原付を運転していたときのことであるから,Y社の業務遂行そのものではない,
 警備員に交通誘導業務を行わせるにあたって,Y社の本社において業務又は業務に密接に関連することを行うことは予定されていない,
 交通誘導業務にあたって自家用車を利用する必要はなく,公共交通機関を利用して工事現場に行くことも可能であった,
 Y社が自家用車による通勤を命じたり,助長するような行為をしていたことはうかがわれない,

 と述べ,AがY社の制服を着用していたことを考慮してもAの運転行為がY社の業務と密接に結びついていると言えない,
 したがってAの運転行為がY社の事業の執行につきなされたものと言えないと結論し,Y社の使用者責任を否定しました。

雑感

 民法715条の「事業の執行について」に関しては,職務執行行為そのものの他,外形上,使用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合を含むというのが最高裁判例です。
 取引的不法行為にこのような外形理論を適用するのはよいとしても,交通事故のような事実行為的な不法行為にまでこのような外形理論を適用することには,批判もあります。

 最判昭52・9・22は,「同人の本件出張につき自家用車の利用を許容していたことを認めるべき事情のない本件においては,同人らが米子市に向うために自家用車を運転したことをもって,行為の外形から客観的にみても,被上告人の業務の執行にあたるということはできず」として,純粋な外形だけでなく,使用者が自家用車の使用を容認していたかという使用者と従業員との間の関係を理由にしています。
 本件もこのような流れの上のものと言えます。

参考条文

民法
(使用者等の責任)
第715条 ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
最判昭40・11・30
「民法715条にいわゆる「事業ノ執行ニ付キ」とは,被用者の職務執行行為そのものには属しないが,その行為の外形から観察して,あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合をも包含するものと解すべきであり,このことは,すでに当裁判所の判例とするところである」