【企業統治】特別の利害関係を有する理事が加わった議決の効力(最高裁平成28年1月22日決定)

 理事会の議決が,当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってされたものであっても,当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは,その効力は否定されるものではない。

事件の経緯

事案の概要

 高知県にある東洋町は,平成23年10月,同年7月の台風による被害を受けた漁業者が属する漁業協同組合に対し,1000万円を限度として資金の貸付けを行うことを内容とする町規則を制定しました。この貸付けについては,漁業協同組合の理事会において資金の借入れが議決されていることを要件としてが定めていました。
 ただし,同町の条例では,規則の公布は条例で定める7か所の掲示場に掲示して行うと定められていますが,この規則はそのうち1か所の掲示場にしか掲示されませんでした。

 水産業協同組合法に基づいて設立されたA漁協は,同年11月,理事8名のうち6名が出席した理事会において,東洋町に対し,町規則に基づいて1000万円の貸付けを受ける申請をすることを議決しました。
 その後,A漁協は,東洋町に対し,同申請をしました。申請に際し,被害漁業者はBの経営する組合であるとしていましたが,A漁協において理事会決議をした6人には,Bとその子Cとが含まれていました。

 町長は,A漁協の申請に対し,1000万円を貸付けることを決定し,公金を支出した貸付けが行われました。そして貸付けを受けたA漁協は,この1000万円をCに融資しました。

 そこで同町の住民であるXは,A漁協への貸付けが違法であると主張して,町長・副町長・会計管理者に対して1000万円の損害賠償請求をすることを町長に求めて高知地裁に住民訴訟を提起しました。

原審の判断

 原々審(高知地裁)はXの請求を棄却しましたが,原審(高松高裁)は,
① 公布手続きを欠いているため,規則は効力を生じていない。したがって本件貸付けは町長の裁量により実行されたことになり,違法かどうかは裁量権の範囲を逸脱したかどうかによる,
② A漁協の議決は貸付けによって利益を受ける者が加わってされたもので,手続き上の瑕疵がある。そのことについて当時の町長に故意または過失があったと言えるから,A漁協の代表理事の代表行為は無効である,
③ A漁協の議決に手続き上の瑕疵があるのを看過して貸付けを行ったことは,町長の裁量権の範囲を著しく逸脱する,
として,Xの請求を認めました。

 これに対して町長が上告しました。

最高裁の判断

 最高裁は,次のように述べて原審の②③を否定し,A漁協の議決は無効と言えず,貸付けが町長の裁量を逸脱すると言えないと判断しました。

① 水産業協同組合法37条2項の趣旨は,理事会の議決の公正を図り,漁業協同組合の利益を保護するためであるから,議決について特別の利害関係を有する理事が議決権を行使した場合でも,それにより議決の結果に変動が生ずることがないときは,そのことをもって議決の効力が失われるものではない。
 理事会の議決が,当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってされたものであっても,当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは,その効力は否定されるものではない。

② 本件B,Cは,いずれも議決につき特別の利害関係を有する者と言える。A漁協の理事8名からこれら2名を除外した6名の過半数にあたる4名が出席して全員が賛成したのであるから,特別の利害関係を有する理事を除いてもなお議決要件を満たす。本件議決を無効とすべき瑕疵があるとは言えない。

③ 貸付けをするにあたって漁業協同組合の理事会決議を要するものとすることは合理的であり,本件貸付けは合理的な手続によって行ったものといえるから,町長の裁量権の範囲を逸脱してされたものと言えない。

雑感

 本件は漁業協同組合の議決に関する判例ですが,会社法369条2項は水産業協同組合法37条2項と同様の規定ぶりになっていますので,株式会社の議決についても,おそらく同様の解釈になるものと考えられます。

参考条文

水産業協同組合法
(理事会の議決等)
第37条 理事会の議決は,議決に加わることができる理事の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあつては,その割合以上)が出席し,その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあつては,その割合以上)をもつて行う。
2 前項の議決について特別の利害関係を有する理事は,議決に加わることができない。

会社法
(取締役会の決議)
第369条 取締役会の決議は,議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)が出席し,その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は,議決に加わることができない。

地方自治法
(住民訴訟)
第242条の2 普通地方公共団体の住民は,前条第1項の規定による請求をした場合において,同条第4項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第9項の規定による普通地方公共団体の議会,長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき,又は監査委員が同条第4項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき,若しくは議会,長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは,裁判所に対し,同条第1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき,訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし,当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第243条の2第3項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては,当該賠償の命令をすることを求める請求