【民事訴訟手続】国際裁判管轄に関して民訴法3条の9にいう「特別の事情」が肯定された例

 これらの事情を考慮すると,本件については,民訴法3条の9にいう「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情」があるというべきである。

事件の経緯

 X1は,パチンコ遊技機の製造販売を行う日本法人で,X2はX1の取締役会長です。
 Yは,アメリカ・ネバダ州で賭博営業の免許を受けた同州法人で,カジノの運営を主な業務としています。

 Xらは,Yとの間で,Yへの出資に関連して複数の合意をしていました。
 この合意中には,裁判管轄についてネバダ州裁判所の専属管轄とすること,ネバダ州法を準拠法とすることが定められていました。

 ネバダ州の法令では,賭博営業の免許取得者は,関係者が犯罪に関与しているなど不適格である当局に認定されると免許を剥奪されることがあります。
 またYの定款には,免許の維持を脅かす可能性があるとして不適格と判断した株主から,株式を強制的に償還するという定めがありました。

 そこでYは,X2が免許の維持を脅かすような行為に関与した可能性を示す証拠があるかどうかを法律事務所に依頼して調査しました。
 その結果,X2らが,フィリピンや韓国で政府職員等に賄賂を供与するなどアメリカの連邦法に違反する行為を繰り返してきたとみられる等を記載した報告書が提出されました。
 Yの取締役会は,Xらは定款で定める不適格者であるとし,X1の子会社が保有するYの株式を強制的に償還する決議をしました。

 そしてYは,Yのウェブサイトに,X2らが,自らの利益を図るため,3年余りの期間にわたって不適切な活動に従事してきたこと,Xらは定款にいう不適格者であり株式を強制的に償還したことを,掲載しました。

 さらにYは,Xらを被告として,Yの行動が合法かつ定款に忠実であることの確認及びX2に対する損害賠償を求める訴訟をネバダ州裁判所に提起しました。
 これに対しX1は,Yらに対し,取締役会決議無効確認及び損害賠償を求める反訴を提起しました。
 この訴訟におけるディスカバリでは,約100名の証人,約9500点の文書が開示されましたが,文書の大部分は英語であり,証人の大半は米国在住で日本語が通じませんでした。

 その後,Xらは,Yに対し,ウェブサイトに掲載した記事によって名誉・信用を毀損されたとして,東京地裁に本件損害賠償請求訴訟を提起しました。

 Yはアメリカのネバダ州法人ですが,記事をウェブサイトに掲載したことで,X1とX2の名誉棄損という結果が日本国内で発生したと言えるため,民事訴訟法3条の3第8号により,日本の裁判所に管轄権が生じます。
 しかし,日本の裁判所に管轄権が生じる場合でも,「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは,その訴えの全又は一部を却下することができる」ことになっています(同法3条の9)。  原審の東京高裁は,この「特別の事情」があるとして訴えを却下したため,Xらが上告したのが本件です。

本判決の判断

 最高裁は,次のように述べて,本件訴えを却下した原審の判断を維持しました。

 本件訴訟に関する紛争は,ネバダ州裁判所に提起されたアメリカ訴訟に関する紛争から派生したものである。
 事実関係や法律上の争点についてアメリカ訴訟と共通又は関連しているから,想定される争点についての証拠は主にアメリカに所在するといえる。
 XらもYも,Yの経営に関する紛争はアメリカで交渉や提訴がされることを想定していた。
 Xらは,実際にアメリカ訴訟に応訴し,反訴も提起しているから,アメリカにおいて訴訟提起するとしても過大な負担を課することにはならない。
 反対に,証拠の所在からすれば,日本の裁判所でこれを取り調べることはYに過大な負担を課することになる。

雑感

 平成23年の民事訴訟法改正前は,国際裁判管轄についてマレーシア航空事件(最判昭56・10・16)があり,民訴法の裁判籍が国内にあるときは原則として被告をわが国の裁判所に服させるのが相当であるが,「当事者間の公平,裁判の適性・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである」と判示していました。
 そして平成23年の同法改正によって国際裁判管轄に関する規定が追加され,判例の趣旨を踏まえて,「特別の事情」がある場合の訴えの却下を定める3条の9を設けました。

参考条文

民事訴訟法
(契約上の債務に関する訴え等の管轄権)
第3条の3 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。
八 不法行為に関する訴え  不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において,日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。

(特別の事情による訴えの却下)
第3条の9 裁判所は,訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意に基づき訴えが提起された場合を除く。)においても,事案の性質,応訴による被告の負担の程度,証拠の所在地その他の事情を考慮して,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは,その訴えの全又は一部を却下することができる。