【交通事故】搭乗者傷害特約の「車両の運行に起因する」もの

 車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したものということはできないから,本件事故が送迎車の運行に起因するものとはいえない。

事案の概要

事件の経緯

 平成22年11月当時83歳であったAは,デイサービスセンターの利用にあたって,センターの送迎車を利用していました。
 この送迎車を被保険車両とする自動車保険契約には搭乗者傷害特約がありました。
 この特約には,送迎車の運行に起因する事故により,その搭乗者が身体に傷害を被り,入通院した場合に入通院保険金を支払い,後遺障害が生じた場合に後遺障害保険金を支払うことが定められていました。

 また,この送迎車は,地面から床ステップまでの高さが約37cm,地面から座席面までの高さが約72cmでした。
 Aは身長が約115cmで骨粗しょう症もあったため,普段,Aが降車する時には送迎車の床ステップと地面との間に高さ約17cmの踏み台を置いていました。

 さて,同月13日,Aはセンターの送迎車で自宅へ送られ,同車はAの自宅前の平坦な場所に停車しました。
 センターの職員がAの手を引いて送迎車から降ろしたところ,Aは地面に足を着く際,右大腿骨頚部骨折の傷害を負いました。
 この傷害のために,Aは平成24年3月まで治療を受け,症状固定の診断を得ました。
 Aは,搭乗者傷害特約に基づいて入通院保険金の支払いを請求し,Aは保険会社であるYから50万円の支払いを受けました。

 同年7月,Aは同特約に基づいて後遺障害保険金の支払いを保険会社に求めましたが,Aは平成25年7月に死亡しました。
 Yは,車両の「運行に起因する事故」でないとして,後遺障害保険金の支払いをしませんでした。
 そこでAの相続人であるXが同保険金の支払いを求めて訴訟を提起し,Yがすでに支払った入通院保険金の返還を求めて反訴を提起しました。

原審の判断

 原審は,本件事故について,Aが送迎車から降車する際に踏み台を置かず,安全に着地できるようにすべき注意義務を職員が怠ったことにより発生したものであり,車両の危険が顕在化したものではないから,送迎車の運行と事故との間に相当因果関係が認められないとして,Xの本訴請求を棄却し,Yの反訴請求を認容しました。

 これに対しXが上告したのが本件です。

 Xは,送迎車の座席面や床ステップと地面との高低差は,高齢者にとって送迎車固有の危険である,この高低差に起因して本件事故が発生したのだから,職員の注意義務違反があったとしても,送迎車の運行と本件事故との相当因果関係は否定されない,と主張していました。

本判決の判断

 最高裁は,次のように述べて,上告を棄却しました。

 センターの職員が降車場所として危険な場所に送迎車を停車したという事情はない。
 今回もセンターの職員による介助を受けて降車することにより,送迎車の危険が現実化しないような一般的な措置がされている。
 Aが着地する際につまずいて転倒したり足をくじいたり足腰に想定外の強い衝撃を受けるような出来事はなかった。
 以上からすると,送迎車の運行が本来的に有する危険が顕在化したものということはできないから,本件事故が送迎車の運行に起因するものとはいえない。

 また,センターの職員が踏み台を使用しなかった点については,安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求等の可否が問題となる余地があるが,運行起因性の有無とは別に検討されるべき事柄である,と述べています。

雑感

 車両の運行に起因してAの傷害が生じたことと,職員に安全配慮義務があったことが,必ずしも両立しないとは言えません。また,どちらも否定されながら,Aに傷害が生じる場合も考えられます。
 そういうことからすると,安全配慮義務違反は別途検討すべき,という点には納得することができるように思います。

 なお,車両の「運行」については,自賠法2条2項で「人又は物を運送するとしないとにかかわらず,自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」と定義されています。