【損害保険】HDDに損傷を生じたことが保険約款にいう落雷によって生じた損害にあたらないとされた例

 「落雷」により生じた損害として保険の対象になるのは,以上高電圧電流の通電など落雷のエネルギーによって直接に保険目的物に損害が生じた場合など,保険の目的物に対して生じた落雷事故による損害に限られる。

事案の概要

保険契約の締結

 Xは,保険会社Yとの間で,平成23年6月,店舗総合保険契約を締結しました。この保険約款には,「当会社は,次のいずれかに該当する事故によって保険の対象について生じた損害に対して,この約款に従い,損害保険金を支払います。」という条項があり,「事故」の一つとして「落雷」が挙げられていました。
 また,損害保険金として支払う額は,時価額によるとの条項もありました。

事故の発生

 Xは,パソコンやHDDを用いて事務所内でネットワークを構築していました。
 ところが,平成24年5月,落雷によってXの事務所に供給される電圧が不安定となり,その後,HDDからのデータの読み取りができなくなりました。
 この不具合について調査を行ったところ,落雷の際の瞬間的な電圧低下により,読み取りヘッドとディスク面とが接触してディスク面が傷つき,そのためにHDDからのデータの読み取りができなくなったことが判明しました。
 この瞬間的な電圧低下(瞬低)は,落雷によって以上高電圧エネルギーが下流に流れ,これによって停電が発生するのを避けるため,変電所で送電系統を切り替える際に,下流の送電網で0.07秒から2秒程度生じる現象だそうです。
 Xは,ディスク面が傷ついてデータの読み取りができなくなったことは,約款に定める「落雷」によって生じたものであるとして,Yに対し保険金の支払いを請求しました。
 Yは,ディスク面の損傷は瞬低を原因とするものであり,落雷は間接的な原因にすぎないなどとして,これを争いました。

一審の判断

 一審は,保険によって補償の対象とされる「落雷による損害」は,落雷によるエネルギーを直接受けて目的物が破壊された損害を想定してはいるが,それに限定されるわけではないなどとして,保険による補償の対象と認めました。
 そこでYが控訴したのが本件です。

本判決の判断

 本判決は,瞬低で生じたディスク面の損傷が約款にいう「落雷」により生じたものと認められるかについて,次のように述べて,一審とは反対に,これを否定しました。

① 店舗総合保険の本質は火災保険であり,もともと火災のみを保険事故とするものであったところ,火災につながらない落雷ショックに損害填補が認められないことが均衡を欠くので,保険の目的範囲が徐々に拡大されてきたという経緯が認められる。
② 保険料率は,保険の目的物について生じた火災を保険事故とする火災保険の基本構造を前提としていて,保険事故たる「落雷」とは,保険の目的物に対する落雷のことである。
③ 「落雷」との用語の理解としては,雷による以上高電圧電流が対象物に通電した場合と解釈するのが一般的な理解である。

 以上①②③から,「落雷」により生じた損害として保険の対象になるのは,以上高電圧電流の通電など落雷のエネルギーによって直接に保険目的物に損害が生じた場合など,保険の目的物に対して生じた落雷事故による損害に限られる。
 保険目的物を雷が直撃する場合でなくても,近傍の柱上トランス付近に落雷したため,引込線でつながっている保険目的物の内部を異常高電圧電流が通電した場合には,保険事故となる。
 しかし,保険の目的物に対する落雷と同視できる至近距離落雷の限定範囲を超えて,長大な送電施設のどこかに落雷が起こることによって下流域に存在する無数の建物について等しく生じる瞬低により生じる損害を保険補填の対象とすることは,保険給付と収受保険料の均衡を根底から覆すものである。

雑感

 本件の保険料からすると瞬低による損害までカバーするような保険商品とは言えないし,それは別に設計販売されている「不測かつ突発的な事故」一般を保険事故に追加する火災保険商品によるべきだ,ということでしょうか。
 瞬低による損害までカバーすると判断されれば,保険会社は保険料を見直さざるを得ないのかもしれません。