【交通事故】被害者に過失がある場合における人身傷害保険金を支払った保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲

 保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額(民法上認められるべき過失相殺前の損害額)に相当する額が確保されるように,保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の損害賠償請求権を代位取得する。

事案の概要

交通事故の発生

 Aは,平成17年5月,道路横断中に,Y1が運転するY2保有の自動車に衝突され入院治療を受けましたが,11月死亡しました。
 この事故によってAが被った損害は7828万2219円でしたが,Aの過失が10%であることから,AがYらに対して請求できる損害金額は7045万3997円でした。
 Aの両親であるX1とX2とは,Yらに対するAの損害賠償請求権を2分の1ずつ相続しました。

加害者による賠償など

 Xらは,Aの損害について,学校共済組合から123万9297円の支払いを受け,またY2から793万0904円の支払いを受けました。
 その結果XらがYらに対して請求できる損害金の残元本は,6128万3796円になりました。
 他方,X1固有の損害は270万円であり,またX2固有の損害は160万円でした。

人身傷害保険金の支払い

 XはB保険株式会社との間で人身傷害条項のある保険契約を締結していて,Aはその被保険者でした。
 この人身傷害条項には,次のような定めがありました。

ア Bは,日本国内において,自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被る損害に対し,保険金を支払う。
イ Bは,被保険者の故意又はきわめて重大な過失によって生じた損害に対しては,保険金を支払わない。
ウ Bが保険金を支払うべき損害の額は,約款所定の算定基準に従い算定された金額の合計額(人傷基準損害額)とする。
エ Bが支払う保険金の額は,人傷基準損害額から①保険金請求権者が賠償義務者からすでに取得した損害賠償金の額,及び②「ア」の損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者がすでに取得したものがある場合はその取得額等を差し引いた額とする。
オ 保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には,Bは,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する。

 Aについての人傷基準損害額は6741万7099円でした。
 Xらは,平成19年10月,Bから,人身傷害条項に基づき,人傷基準損害額から各支払額を差し引いた5824万6898円の支払いを受けました。

Yらに対する請求

 X1は,Yらに対し,
① Aの損害額の残元本の2分の1である924万3908円,
② 固有の損害金元本330万円と事故日から保険金支払い日までの遅延損害金41万0465円,
③ ①②の元本合計1254万3908円に対する保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金
の支払いを求めました。

 X2は,Yらに対し,
① Aの損害額の残元本の2分の1である924万3908円,
② 固有の損害金元本210万円と事故日から保険金支払い日までの遅延損害金26万1205円,
③ ①②の元本合計1134万3908円に対する保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金
の支払いを求めました。

 原審は,Bが支払った保険金は,民法491条に準じてAの損害金の残元本に対する保険金支払い日までの遅延損害金に充当される,充当後の残額は,全額がAの損害金の残元本に充当されるとして,Aの損害金の残元本は1065万9594円であると判断しました。
 これに対してYらが上告しました。

最高裁の判断

 最高裁は,以下のように述べて原審の判断を変更しました。

① 約款によれば,上記保険金は被害者が被る損害の元本を補填するものであり,遅延損害金を補填するものではない。Bは,保険金請求権者の損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではない。

② 約款によれば,Bは,被保険者に過失があるときでも,過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされ,被害者が被る実損を過失の有無,割合にかかわらず填補する趣旨・目的の下で支払われると解される。
 この趣旨・目的に照らすと,代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,過失の有無・割合にかかわらず,保険金の支払いによって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)を確保することができるように解すべきである。
 Bは,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の損害賠償請求権を代位取得する。

雑感

 人傷保険金の支払いが加害者からの賠償金の支払いに先行した場合に,いわゆる裁判基準差額説(訴訟基準差額説)を採用することを明らかにした判例です。
 加害者からの賠償金の支払いが人傷保険金の支払いに先行した場合については,人傷算定基準に従って算出された金額の合計額から,すでに支払いを受けた損害賠償金額を控除した残額をもって人身傷害保険金の額とすべきであり,民法上認められる過失相殺前の損害額からすでに支払いを受けた損害賠償金を控除した残額をもって人身傷害保険金の額とすべきではないとする大阪高裁判決があり,上告不受理により確定しています。これによれば,請求の先後で受け取ることのできる総額が違ってくることになります。
 もっとも,現状では,判決又は和解によって人傷基準額を上回る額が算定された場合はその額を人傷基準による損害額とみなすという規定を設けている場合が多いため,請求の先後で受け取る総額が異なるという問題は生じないことになります。
 ただ,約款を文言通りに解釈するというのが裁判所の傾向ですので,示談による場合はこの読み替え規定が適用されないという問題を生じることがあります。